吸血型M&Aとは
「吸血型M&A」をご存じでしょうか?
これは買収した後でその企業の資産を吸血鬼のように吸い取り、そのままトンズラしてしまうM&Aのことです。残された企業は事業を継続できずにそのまま破産ということもあります。
またM&Aにより企業を売却した場合には、以前の経営者が企業の借金に対して負っている連帯保証は外す手続きをするのが一般的ですが、吸血型M&Aにおいてはその約束が反故にされることも多いです。
さらには譲渡会社名義でさらに借金を重ねたり、土地を買ったりして、その代金を支払わないということもあります。この場合、以前の経営者がその債務を負わされることもあります。
投資会社ルシアンホールディングスの事例
吸血型M&Aを行っている会社は何年も前から存在していましたが、ここ最近はニュースでも取り上げられるようになりました。有名なところでは投資会社のルシアンホールディングス(ルシアン社)による事件があります。
ルシアン社は30社以上の中小企業をM&Aにより買収し子会社化した後に、それらの会社の現預金を自社に移管させてしまったのです。これにより買収された企業は事業資金がなくなり従業員への給料の遅配なども起きています。
ちなみにルシアン社は株の売却代金の支払いも行っていないとのことで役員2人に告訴状が出されています。
このような吸血型M&Aを行っているのはルシアン社だけではありません。みなさんの身近にも資産を狙っている怪しい会社が存在していますから注意してください。
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吸血型M&Aのターゲットにされやすい企業の特徴
どういった企業が吸血型M&Aのターゲットにされやすいのか、その特徴を解説します。
現金や資産を持っている
借金があっても現金や土地などの資産を持っている企業は狙われやすいです。
仮に借金が1億円あって、現金も1億円ある会社があったとしましょう。
吸血型M&Aではこの企業を「プラスマイナス0円ですが、将来生み出す利益を考慮して1,000万円で買います」ともっともらしいことを言って買収するのです。
そして現金を移管させてトンズラして9,000万円の儲けを出すのです。買収金額の1,000万円さえ払わない可能性もあります。
借金できる余地がある
現金がなくとも、借金できる余地があれば吸血型M&Aの対象となります。継続的に利益が出ていれば融資を受けやすいです。
利益が出ていなくとも「新たな経営陣による成長戦略を描く」とアピールすれば、銀行が貸してくれることもあります。特に成績がよくない支店であれば積極的に融資してくれるでしょう。
しかし、そこで調達した資金が事業に回されることはなく持ち逃げされるのです。
そして前オーナーに負債だけが残るのです。なぜなら吸血型M&Aでは前オーナーの保証を外していないことが多いからです。しかもこの場合の金利はたいてい高めに設定されていますから目も当てられません。
後継者がいない、財務・法務に精通した社員がいない
吸血型M&Aに限ったことではありませんが、後継者がいない企業は買収候補になりやすいです。
特に経営者が高齢で事業意欲もなくなっている場合ですと、すぐにでも売りたいだろうと判断され、狙われます。
また、社内に財務や法律に精通した人間がいない中小企業も狙われやすいです。ちなみにこれに関してはホームページでバレることがあります。明らかに法的リスクのある内容で公開していると、「この会社には専門性の高い人材がいないので騙しやすい」と判断されます。
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吸血型M&Aに騙されないための防衛策
交渉の相手が吸血型M&Aをしようとしているのか見分けるのは非常に困難です。まだ何も事件を起こしていなければ情報は出ていませんし、信用情報だけでは表面的なことしか分からないからです。
それでも吸血型M&Aに騙されないための防衛策はあります。
質問内容が足りない相手は疑う
実は私のところにも、吸血型M&Aを狙っている買い手がやって来ることはあります。売手側のアドバイザーとして立ち会ったときに、そういう人たちに遭遇したこともあります。(当然、断わってもらいましたが)
あくまで私の個人的な見解で「吸血型M&Aだ」と判断しているだけなので、それが正しいのかは不明なのですが…
しかし、吸血型と思わしき買い手には一つの特徴があります。それは質問内容が足りないということです。
買収した後に本気でその企業を経営して伸ばしていこうと思ったら、絶対にそこは確認しておきたいだろう、ということがあるものです。
「そんなこと気にするの?」という風変わりな質問が出てくることもあります。健全な買い手がM&A後に本気で経営したいからこそ出てくる質問というのがあるのです。
しかし、吸血型M&Aではそういった質問が出てこないのです。その業界に精通していない私でさえ「そこを質問しなくて良いの?」と思うようなことがよくあるのです。
具体的にどんな内容かを書いてしまうと吸血型M&Aをしている悪人を利することになるので書きませんが、経営者であれば直感的に分かると思います。
分からなければ「もし自分が買う側だったとしたら何を確認したいか?」という視点で考えると良いと思います。
実態を直接確認する
最近は中小企業のM&AにPEファンドや投資会社が参戦してくることもあります。これ自体は売却先の候補が増えることですから歓迎すべきことだと思います。
しかし詐欺のために設立された実態のない投資会社も多いです。冒頭で紹介したルシアン社も東京都千代田区に登記されていましたが、実態はありませんでした。茨城県土浦市にオフィスはあったそうですが…
また、事業会社であっても休眠会社を買っただけのペーパーカンパニーという可能性もあります。
ですから直接相手の住所に出向いて実態を確認することが大切です。アポなど取らずに遠くからこっそり見れば良いと思います。
実際に店舗や事務所を構えている会社であっても、信用してはいけません。最近も中部地方の某企業が前オーナーの連帯保証を外す手続きを行ってくれていないことが問題となりました。
特にどの業界と名指しはしませんが、実業の会社であっても、業界として倫理観の低いところに属する相手とのM&Aには気をつけてください。
それとM&A仲介の会社を信用しすぎないことも大切です。中小企業庁のM&A支援機関に登録している仲介会社のうち15社がルシアン社の仲介を手掛けていたのです。