M&Aの仲介会社の利益相反の問題。買い手に味方しがちなんてことはないです

M&A

M&Aの仲介会社の利益相反がよく問題にされます。売り手と買い手の間に立って契約成立までの調整やアドバイスを行い、双方から料金をいただくのはコンプライアンス上どうなのか?と。

利害関係が対立する二者間の双方を代理するというのは一般的な商慣習としては考えにくいことかもしれません。

民法でも双方代理は「代理権を有しない者がした行為とみなす」となっています。それでも双方代理できるのは「本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない」と規定されているからです。

つまり、売り手からも買い手からも許諾を得たうえで双方代理を行っているので、有効に契約が成立するということです。

とはいえ世間的には「どちらか一方に味方してるでしょ」と疑われています。特に「買い手の味方をしてるんじゃないか?」と疑っている人は多いようです。

しかし、個人的には「そんなはずないでしょ」と言いたいです。仮にどちらかの味方をするとしたら売り手じゃないかと。

次回も取引してもらうために買い手に味方しよう!なんて思わない

M&A仲介における一番の問題といえば、「高く売りたい売り手」と「安く買いたい買い手」という利益の相反する双方の味方もするなんてことできるのか?ということです。

経済誌や評論家の書いた記事を見ているとM&A仲介会社は買い手に味方しがちといわれることが多いです。その理屈としては、売り手との取引は1回きりで終わるけれど、買い手は次以降も買ってくれるリピーターになる可能性があるから恩を売りたいはず、というものです。

昔からこういった話はされていましたが、河野太郎議員が公式サイトで次のように言及したことでさらに広がったようです。

この場合、売り手は一回限り、つまり自分の企業を売却すればそれ以上売り物はありませんが、買い手はその後も企業を買い取る可能性があります。

仲介者にとってみれば、一回限りのビジネスにしかならない売り手に寄り添うよりも、今後もビジネスができる買い手に寄り添う方が得になります。

双方から手数料をとる仲介は、利益相反になる可能性があることを中小企業庁も指摘しています。

引用元 衆議院議員 河野太郎公式サイト『中小企業のM&A』

確かに理屈は通ってそうですが…

しかし、私の知る限り、「お得意様だから安く買えるようにしよう」とか「一回きりの取引だから買い叩いてしまえ」などというM&A仲介会社の人はいません。

そもそもですが、売り手とも買い手とも頻繁に会ううちに、人間的な部分も知る機会が増えていくものです。そのような状況でどちらかを陥れてやろうなどと思えるとしたら、人間性がかなりヤバいと思います。鬼じゃないですか…

吸血型M&Aのターゲットになりやすい企業の特徴!第二のルシアン社に狙われないために」で紹介した、あくどい買い手とグルになっているような仲介会社はどうか知りませんが…

仲介会社が自分たちの利益を考えるなら売り手の味方になる

まず、知っておいてほしいのは、M&Aを仲介するにあたっては、まともな仲介会社であれば絶対に中立な立場を貫いているということです。

買い手の利益を最大化しようなどとは思っていないのです。

仮に、(絶対にそんなことはありませんが)仲介会社が自分たちの今後の利益を考えて、どちらかの味方をするとすれば、売り手の味方になると思います。

なぜなら、売り手は他の売り手を紹介してくれるからです。

中小企業のM&Aは売り手を探すほうが圧倒的に難しいのです。いまだに身売りという負のイメージもあり「売りたい」と言ってくれる人は少ないからです。先に売り手が見つかっていれば、買い手を探すのはそれほど難しくありません。

とはいえ、「M&Aの成約率!「売り」は5割、「買い」は1割。そもそも売れる会社の割合は何割か?」の記事でも説明しましたように、世の中には売れない会社のほうが多いのも事実です。ですから、「少しでも売りやすい会社を紹介してほしい」というのが仲介会社の本音です。

そして、一度、会社を売ったオーナーから紹介される売り手候補というのは売れる可能性が高いことが多いのです。なぜなら、同じようなレベルの経営者同士のネットワークがあるからです。売れる会社のオーナーの知り合いの会社も売れるのです。

つまり、仲介会社としては、売り手に「あの会社に頼んで良かった、そうだ知り合いもM&Aを考えていたから紹介しよう」と思ってもらうのが最も利益につながるのです。

なので、絶対にそんなことはありませんが、仮にどちらかに肩入れするとしたら、売り手になるはず…と個人的には思うのです。

特に地方では企業人同士のネットワークが濃いですから、悪評はあっという間に広がります。一度限りの取引だから、と無下に扱えばそのエリアで仕事ができなくなるのです。どちらかに肩入れするなどということは絶対にありえません。

高く売れたほうが手数料が多く入るけれど…

それから、M&A仲介の手数料は売却額にパーセンテージを掛けたものですから、高く売れたほうが仲介会社に入るお金は増えます。だからといって、そのために高く売ろうという気持ちになる人もいません。

また、買い手の希望額よりも安く成立させたら特別ボーナスを貰っている仲介会社もある、などという話もありますが、そんなことをしたい人間がどれほどいるのでしょうか?

そもそも、仲介する立場であまりに外した金額で取引を成立させるというのは相場観が無いということです。これはM&A仲介をする人間としてはかなりなことです。

非公開会社のM&Aは公表されないので誰かに知られることは少ないですが、それでも自分を恥じることになるのです。

もちろん売り手だけのアドバイザーに入れば少しでも高くと考え、買い手だけのアドバイザーに入れば少しでも安くと考えますが…。双方を代理する立場では絶対に中立です。買い手だけに寄り添うなどということはありません。

☑︎M&Aブティックをアドバイザーとして起用すると売却価格が高くなる