M&Aの資金調達と銀行融資、中小企業が買収するときでも貸してくれる?

M&A

M&Aで会社を買うときの資金を銀行融資で調達したいと考えている経営者の方もいると思いますので、今回はその件について書いてみたいと思います。あくまで私の主観ですのでこれが正しいとは言えませんが、参考にはなるかと思います。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが企業買収の際にどのように資金調達を行ったかということを調べています。それによると、自己資金で買収したという会社が49.5%、借入で買収したという会社が42.3%となっています。他の資金調達方法としては経営者の個人資産を会社に貸すとか、新株を発行するといった手法が用いられています。

ただし、この調査の対象となっている企業は、サービス業で売上高5億円以上、その他業種で売上高10億円以上のところだけですから、それよりも規模の小さい企業も同じ割合なのかというとちょっと分からないところがあります。

そもそも、中小企業のM&Aのために銀行が融資をしてくれるのか?ということなんですが…

これはまず、誰が「貸してくれ」というかによって違います。当然ですが財務が健全な会社のほうが貸してもらいやすいです。ただそれ以上に、銀行によってかなり態度が違う、というのが個人的な感覚です。それどころか同じ銀行でも支店によって違うと思います。M&Aの融資を新たなビジネスチャンスと捉えているとか、全体的な貸出残高がちょっと足りてないかも…という支店なら貸してくれやすいかもしれません。

しかし、基本的には消極的な銀行が多いように思います。地元の企業を集めてM&Aセミナーのようなことをやっているので、融資も積極的に行ってくれるのかと思ていたら、そうでもなかったということもありますから。

銀行がM&Aの資金への融資に消極的な理由

なぜ銀行はM&Aのための融資に消極的なのでしょうか?

それは今まで通りの通常の融資だけでも利益が出ているので、わざわざ手間とリスクを取るインセンティブがないからです。これに尽きると思います。しかし、それでは話が終わってしまうので、もう少し詳しく解説したいと思います。

1. M&Aのリスクが高いと見なされている

銀行がM&Aに慎重になるのはリスクの高い取引と見なしているからです。特に経営資源が限られている中小企業の場合、経営統合後に本当に成長が見込めるのか分かりにくい部分があります。そのためM&Aの成功率が大企業に比べて低いと思われがちです。

また、M&Aを他の設備投資などと同じように「事業拡大のための投資」と考えてくれることは少なく、「投機的な取引」と評価することもあります。そのため、買収が失敗したときや予想外の損失が発生したときに、融資を回収できなくなるリスクが高いと判断します。銀行はリスク回避を基本とするため、このような不確実性の高い取引には消極的となってしまうのです。

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2. 対象企業の評価が難しい

M&Aにおいては、買収対象企業の価値評価が非常に重要ですが、これが中小企業では難しいとされています。財務諸表の透明性が低い場合や、事業計画の信頼性に欠ける場合、適正な企業価値を評価することが困難です。また経営が属人的であったり、過去の業績が不安定であったりする場合も適正な評価ができません。銀行は貸し倒れリスクを減らすために、担保価値や返済能力の見極めに慎重であり、評価が難しい企業には融資を避けがちです。

それから、買収対象企業が特定の業界や地域に依存している場合、その市場動向や経済情勢による影響を受けやすいため、さらなるリスクが加わります。将来的な収益予測が難しい事業に融資をするメリットを感じる銀行は少ないです。

3. 融資の担保確保が難しい

銀行が融資を行う際には、通常、貸し付け金額に対して十分な担保を確保する必要があります。しかし、M&Aの場合は担保として提供できる資産が限られることが多いです。特に中小企業は保有する不動産や設備などの資産が少なく、担保価値が不十分であることが多いです。

また、M&Aの資金は買収先の企業やその資産に投入されないため、買収後の企業統合が順調に進まなければ資金の回収が困難となるリスクもあります。銀行は、M&A後に企業が抱える負債の増加やキャッシュフローの悪化が発生する可能性を懸念し、担保が取れないM&Aに対して消極的な姿勢をとります。

4. 中小企業の財務力に対する不安

中小企業の多くは、財務基盤が脆弱であるとされ、通常の融資を受ける場合でも十分な信用が必要です。M&Aのような大規模な資金調達には、それなりの自己資本が求められることが一般的ですが、中小企業ではその自己資本が不足している場合が多く、銀行としては貸し出しに対する不安が高まります。

自己資本が少ない企業に対して銀行が融資を行うと、返済に支障をきたすリスクが高まります。また、M&A後の債務負担が大きくなれば、財務バランスが崩れる可能性も考慮しなければなりません。したがって、銀行は中小企業のM&A資金調達に対して、財務リスクを過度に負うことを避けようとするのです。

5. 事業統合後のシナジー効果の不透明性

M&Aを行うことで、事業規模の拡大や効率化によるシナジー効果が期待されますが、中小企業の場合、このシナジー効果が実際に得られるかどうかが不透明です。多くの中小企業では、買収後の統合プロセスにおいて人材やノウハウの不足が生じ、経営効率がむしろ低下する可能性もあります。銀行にとって、こうした経営統合後の不確実なシナジー効果を根拠にして融資を決定するのはリスクが高いです。

6. 規制や政策の影響

銀行が中小企業に対してM&A資金を提供することに関して、政策的な支援も限定的であることが、融資を難しくしている要因の一つです。日本の金融制度において、中小企業向けの融資はある程度の政策支援があるものの、M&Aのようなリスクの高い取引には積極的な支援が少ないです。

政府系金融機関が、中小企業の事業継続を支援する目的で一部のM&A案件に助成金や補助金を提供するケースもありますが、これらの支援はすべての中小企業に適用されるわけではありません。また、コロナ禍の影響などで金融機関がリスクテイクに慎重になっている現状も、M&A資金の融資に対する消極的な姿勢を強化する要因となっています。

日頃から財務の健全性を保ったり、現実的な成長戦略を描いておく

ここまで説明したように、基本的には銀行はM&Aの融資に慎重な姿勢を取っています。

とはいえ中小企業のM&Aは広がっていますから、銀行として融資実績が溜まり、精度の高い審査方法が確立できれば、新たな収益源と捉えて、積極的になるところも出てくると思います。

取引銀行の担当者にM&Aの話題を振ってみると、その銀行のスタンスが分かるかと思います。その支店では扱っていなくとも、行内に専門部署があればつないでくれるかもしれませんし、売り手情報を紹介してくれる可能性もあります。

もちろん、M&Aの話をすることで「リスクの高い経営をしようとしている」と判断され、他の融資に悪影響が出ないように注意しなければなりませんが…。

銀行からすれば融資した資金が何に使われるかと同じくらい、誰に貸すかも重要ですから、普段から財務の健全性を保ったり、現実的な成長戦略を描くことで、「あの会社なら融資しても問題ない」と思って貰えるようにしておくことが大切です。

参考文献:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 『成長に向けた企業間連携等に関する調査』(2017)