少し前の記事でM&AでFA(ファイナンシャルアドバイザー)をつけると損かもしれないという話を書きました。買い手がFAをつけた場合であっても、買収価格が上がってしまうリスクがあるという話でしたね。
今回はそれと似たような内容になってしまうのですが、M&Aブティックをアドバイザーとして利用した場合はどうなのか?というお話です。
前回の記事ではファイナンシャルアドバイザー全体が対象でしたが、今回はM&Aに特化しているアドバイザーに絞った内容となります。
M&Aブティックとは?
そもそもM&Aブティックとは何か?ということなのですが…
ブティックはフランス語の「boutique」に由来する、主に服飾関係の小規模な高級店を意味する言葉ですね。デパートなどに対して、より特化したお店ということです。
そして金融の世界でブティックという場合は、ブティック型投資銀行を指すことが多いです。ゴールドマンサックスやモルガン・スタンレーといった幅広い業務を扱う大手投資銀行に対し、一部の業務に特化した投資銀行のことをブティック型投資銀行といいます。
そして、その中でM&Aに特化したブティック型投資銀行がM&Aブティックということになります。ですので、M&A仲介会社も、M&Aアドバイザリー会社もM&Aブティックということになります。
特化している分、専門的なアドバイスができることがブティック系のメリットです。また大手金融資本の傘下ではなく、独立系が多いので、利益相反が起こりにくいともされています。仲介会社の場合は利益相反の可能性も指摘されていますが…
☑︎M&Aの仲介会社の利益相反の問題。買い手に味方しがちなんてことはないです
M&Aブティックをアドバイザーに起用したときの効果
M&Aブティックを財務アドバイザーとして使った場合、取引にどのような影響が出るのでしょうか?
それを調べた、シドニー工科大学ビジネススクールのアンナ・ロヨン博士の研究があります。この研究では、1997年から2013年までにオーストラリアで行われた約400件のM&Aを分析しています。
その結果、売却側の企業においてはブティック型アドバイザーを起用したときのほうが、売却価格は高くなることが分かりました。
一方で、買収側の企業においては安く買収できる効果はありませんでした。
ちなみに買収側のアドバイザーの報酬は買収価格に比例していることが多いため、高値で契約させようとするバイアスがあるとされることもありますが、今回そのような結果は見られませんでした。
買収後のパフォーマンスへの影響
M&Aブティックをアドバイザーとして起用したときのほうが、買収後の企業のパフォーマンスが高いことも分かりました。
具体的には買収後3年間のROA(総資産利益率)が有意に改善することが確認されました。これはM&Aブティックのアドバイザーが業界に特化した専門知識と経験を活かして適切なターゲット企業を選定し、効率的な事業統合を可能にしたことによるものと考えられます。
さらに、取引条件の交渉において、企業価値を損なわない適切な価格や条件を設定することで、買収後の利益率を向上させる役割を果たしています。
また、アドバイザーを起用した企業では、買収後5年間におけるのれんの減損リスクが有意に低下する傾向も確認されています。これもターゲット企業の評価プロセスにおいて過剰評価を避ける能力が高いことや、適切なターゲット選定によって買収後のシナジー効果を最大化していることが要因と考えられます。
このように、ブティックアドバイザーの役割は、単なる取引の交渉に留まらず、取引条件の最適化や長期的な価値創造にも影響を及ぼす重要な要素として位置づけられます。
日本ではM&Aブティックを使ったほうが良いのか?
面白いことに、オーストラリアでは大規模なM&A案件ほどブティック型のアドバイザリー会社を使う傾向が高まるということも分かりました。これはオーストラリアではブティック型に対する信頼が高いことが理由の一端とされています。
それに対して日本はどうかというと、うーん…ですね。吸血型M&Aに加担してしまうような会社もありますし。そもそも怪しいM&Aアドバイザーも多いですから。M&Aの市場がまだまだ発展途上なのです。
もちろんきちんとした会社もありますし、そういったところは専門知識もあり、売り手・買い手の双方が気持ちよく取引できるように最善を尽くしています。M&Aブティックの全てが詐欺ではありません。
要するにM&Aのパフォーマンスが高まるかどうかは、どこにお願いするかによるということです。信頼できるところにお願いしましょう。当たり前すぎる結論ですが…。
参考文献:Loyeung, A. (2019). The role of boutique financial advisors in mergers and acquisitions. Australian Journal of Management, 44(2), 212-247.