企業同士が提携する目的は技術や販売ネットワークなどの経営資源を提供し合うことでシナジー効果を生み出すことです。「1+1が2よりも大きくなる」などと表現されます。
提携がうまくいけば販路の拡大や新たなサービスの開発にもつながります。
他社との提携が上手くいくと新たな提携先を増やしたりさらに進んでM&Aを考えることもあります。しかし、新たな提携や買収が既存の提携先とのシナジー効果を失わせてしまうこともあります。特に競合他社の買収についてはこのリスクが高いといえます。
新たに買収される企業の業務が提携に与える影響
例えばA社とB社が提携しているとします。そしてA社が新たにC社を買収したとします。
このときA社とB社の提携はどんな影響を受けるでしょうか?
BIノルウェー・ビジネススクールのドヴェヴ・ラヴィたちが2000年から2016年に行われた164の買収を対象に既存のアライアンス(提携)に与える影響を分析しています。
それによると新たに買収される企業が既存の提携企業と補完的な業務を行っている場合には新たなチャンスが生まれ、シナジー効果が向上する可能性があることが分かりました。
しかし、新たに買収される企業が既存の提携企業と競合する業務を行っている場合には既存の提携関係にマイナスの効果が出ることが分かったのです。つまり既存の提携関係のシナジー効果は新たに買収される企業の業務内容に影響されるのです。
☑︎組織のアイデンティティによってM&A後の最適な経営統合は変わる
なぜ競合他社の買収がシナジー効果を失わせるのか?
なぜ提携先と競合する事業を行っている企業を買収するとシナジー効果が失われるのでしょうか?
それは競合他社を買収したことで同業を営むライバルになったという認識を持たれてしまうからです。
それによって提携に対するコミットメントが低下し、リソースを割かなくなったり、情報提供を制限するなどのネガティブな影響が出るのです。オープン・イノベーションが起こりにくくなるともいえます。
このような悪影響は長い期間に渡って親密に提携していた企業同士ほど大きくなることも分かっています。裏切られたという感情を持ちやすくなることも要因かもしれません。
☑︎IPO後も革新を続ける企業は「イノベーション・インプリンティング」をしていた
M&Aは増えてはいるが…
2000年代に入り日本でも企業買収の件数は増えています。
仲介会社の存在により大企業だけではなく中小企業によるM&Aも珍しいことではなくなりました。新たな買収がイノベーションにつながることもあります。
しかし、その買収が全体としてプラスになるのかという視点は持っておく必要があります。思わぬところからの顰蹙を買う可能性があるのです。
参考文献:Dovev Lavie, Randi Lunnan, Binh Minh T. Truong. 2022. How does a partner’s acquisition affect thevalue of the firm’s alliance with that partner?