ノンネームシートで会社名がバレる!リスク管理どうする?

M&A

M&Aにおいて「ノンネームシート(Non-Name Sheets)」は、売り手の企業情報を匿名化して潜在的な買い手に提供するための書類です。これは、M&Aのプロセスにおける初期段階で使われ、売却する企業の詳細な情報を明かさずに、事前に興味を持つ可能性がある買い手を絞り込む重要な役割を果たします。

しかし、こうした匿名性の高い手法でも、売り手の社名が特定されるリスクが存在します。私も同業から提示されたり、M&A仲介サイトで公開されたノンネームシートから「あの会社だ」と分かってしまうケースがよくあります。

そこで今回はノンネームシートによってなぜ会社名がバレてしまうのか、そしてそれに対処するにはどうすれば良いかを書いてみたいと思います。

ノンネームシートとは

ノンネームシートは、中小企業のM&Aにおいて、売り手企業の具体的な情報を伏せつつ、買い手に事業の概要やメリットを伝えるための資料です。このシートには、売り手の会社名や具体的な所在地、詳細な取引先など、特定の情報は含まれません。

その代わりに、売り手企業の業界や事業規模、売上高、利益、従業員数などの基本的な情報が含まれています。この方法は、売り手が直接名前を出すことなく、興味を持った買い手と情報を交換できるため、売り手のプライバシーを守りつつ、M&Aの交渉を進めることが可能です。

ノンネームシートは、売り手が市場に出ていることを知れ渡るのを防ぐための重要な役割を果たします。M&Aの交渉過程において、売却の可能性が公になることで、従業員の離職、取引先の不安、さらには顧客の流出など、売り手企業の業務に影響が出ることが懸念されます。

そのため、ノンネームシートを活用し、会社名を伏せた状態で買い手と接触することが推奨されています。

※ノンネームシートよりもさらに詳細な情報を記した匿名のものを「ティーザー」と呼びます。中小企業のM&Aではどちらも同じ意味で使っている人も多いですが…。

ノンネームシートで会社名がバレる理由

ノンネームシートは売り手企業の名前を直接記載しないため、安全性が高いと考えられがちですが、実際には特定の情報が漏れることで、売り手の企業名が知られるリスクがあるのです。このリスクが発生する理由はいくつかあります。

1.具体的すぎる情報の記載

ノンネームシートには企業の所在地や詳細な事業内容は記載されないように設計されていますが、場合によっては業界内での特殊な特徴や事業の強みを記載することがあります。

例えば、特定の地域で特に強みを持つ、独自の技術や製品を持っているなどの記載がある場合、業界内の関係者がその特徴を手がかりに売り手の会社名を推測できる可能性があります。業界が狭い場合や、企業が特定の分野で著名な存在である場合、このリスクはさらに高まります。

2.業界の知識と経験豊富な買い手

特定の業界に長く関わっている買い手や、業界に精通した専門家は、ノンネームシートの情報から売り手の会社名を特定できることがあります。

例えば、業界内での競合や特定地域での知名度、またはその企業が抱える独自の問題に関する情報があると、推測の材料になってしまいます。経験豊富な買い手ほど、情報の断片をつなぎ合わせる能力があり、売り手企業を特定するリスクが高まります。

3.過去の公開情報との照らし合わせ

企業は過去に何らかの形で経営情報やプロジェクトの概要を公表している場合があります。例えば、過去にプレスリリースやニュース記事で会社の業績や新規事業、拠点の拡大について公表した場合、ノンネームシートに記載された情報と合わせることで、その企業名を推測できることがあります。

また、特に業界メディアに頻繁に登場する企業や、特定の分野での活動が目立つ企業では、より特定されやすくなるでしょう。

売り手企業が取るべきリスク回避策

売り手企業がノンネームシートでの情報漏洩リスクを最小限にするためには、いくつかの対策を講じる必要があります。以下にその主な対策を紹介します。

1.情報の記載範囲を限定する

ノンネームシート作成時には、売り手企業の特徴を記載する範囲を慎重に制限することが重要です。具体的すぎる事業の詳細や、地域に関する情報を曖昧にすることで、特定されるリスクを下げることが可能です。

また、売り手企業の強みや競争優位性を表現する際にも、業界内で特定の企業だと推測されないように工夫する必要があります。例えば、独自の技術やニッチ市場での強みをアピールする場合でも、「特許取得済の技術」や「国内トップシェア」といった具体的な言葉を避け、あくまで「優れた技術力」「業界内での競争力」など一般的な表現にとどめるのが良いでしょう。

2.公開先を限定する

ノンネームシートの配布先を限定し、買い手の身元を確認することもリスクを減らす方法の一つです。信頼できるM&A仲介者やアドバイザーを通じて接触することで、情報の管理を徹底できます。

また仲介業者やアドバイザーをつけずに、自社で作成したノンネームシートをM&Aマッチングサイトに公開している会社の中には、明らかに情報を出し過ぎのところも少なくありません。自分達では「これくらいじゃバレないだろ」と思っていても、ネット上の情報を組み合わせれば簡単にバレることもあります。

大勢の目に触れる場所に公開する際には特定の数社に絞り込めない範囲の情報だけを記載するように注意してください。

☑︎M&Aの注意点、売り手が確認すべきポイント

3.自分達の勘所を大切にする

上記と矛盾するように感じるかもしれませんが、自分達の感覚も大切にしなければなりません。業界のことはアドバイザーよりもそこで働いている人たちの方が詳しいからです。「この情報までならウチの会社だとバレない」とか「このフレーズを使ったらバレる」という勘所を仲介会社やアドバイザーに伝えながら、ノンネームシートを作成しましょう。

その業界にいれば誰でも分かってしまうこと、というのはあると思いますが、そういった部分に関してはM&Aのアドバイザーは詳しくないこともあります。

例えば「宅急便(※1)をやっている会社です」と書いたとき、物流業界にいる人間ならヤマト運輸と分かりますが、アドバイザーはそれに気づけないことがあります。ですからノンネームの作成を任せっきりにしないようにしてください。

※1 「宅便」はヤマト運輸の登録商標なので、他社のサービスは「宅便」と言う

リスクを完全に排除することは難しい

中小企業のM&Aにおけるノンネームシートは、売り手企業のプライバシーを守り、慎重に買い手との接触を行うための重要なツールです。しかし、ノンネームシートであっても、企業名がバレるリスクを完全に排除することはできません。特に業界内での認知度が高い場合や、情報が詳細すぎる場合には、特定されやすくなるため注意が必要です。

ノンネームシートのリスクを軽減するためには、情報の記載範囲の工夫、買い手の身元確認、第三者のチェックの活用が有効です。また、段階的な情報公開を行うことで、情報の流出リスクを減らしつつ、真剣な買い手と確実な交渉を進められるでしょう。こうした対策を講じることで、中小企業の売却活動を安全に進めるためのM&Aが可能となるのです。