M&Aによって会社を売却した後は、お金持ちになって悠々自適な生活が待っている、というイメージを抱いているオーナーさんも多いでしょう。
確かに内容の良い会社であれば、高い金額で売却できますから、お金持ちにはなれるでしょう。超のつく富裕層にならなくとも、働かずに趣味を楽しみながら生きるのに十分なお金は得られるかもしれません。
しかし、だからといってその後の人生に満足できるかといったら、必ずしもそうではありません。数十億円の現金を手に入れても、後悔する人は一定の割合でいます。
そこで今回は会社売却後の人生を損する人の特徴を解説したいと思います。
1.会社と自分を同一視していた人
「会社は自分の子供のようなもの」と考えているオーナー社長は少なくありません。MRIで脳を観察する実験では、起業家が自社の写真を見たときに、子供を見た時と同じ箇所が反応するということも分かっています。
特に創業者の場合、会社の成功や失敗は自分自身の評価と直結したものと考えがちです。こうした経営者は会社を手放した後に「自分の存在意義」を失ったと感じることが多いのです。
そして、会社売却後の新しい生活においても、自己成長の目標や挑戦すべき事柄を見出すことができず、虚無感に苛まれることがあります。
2.売却後のビジョンを明確にしていない人
会社売却後の人生や活動のビジョンがない場合、「次に何をすればよいか」が分からず途方に暮れることがあります。
特に、仕事が日常生活の大部分を占めていた経営者は、売却後の時間をどのように使うか明確にしていなければ、退屈や無力感を感じやすいです。
「もう一度何かを成し遂げたい」と感じても、ゼロから何かを起こすほどのパワーが残っておらず、後悔に繋がることがあります。
こういった心情を拗らせてしまうと、売却で得た資金で無謀なビジネスを始めて失敗し、一文無しになってしまうリスクもあります。
3.競業避止と自分の好きなことを熟考しない人
会社を売却すると「競業避止」の義務が発生します。売却した会社と同じ仕事をしてはいけない、ということです。前オーナーがライバルとなりかねないビジネスを始めたら買い手としては困ってしまいますから当然の義務です。会社法では同一エリアにおいて20年と規定されていますが、契約によってカスタマイズされることが多いです。
ここで考えるべきことは「本当に二度とそのビジネスをやりたいとは思わないのか?」ということです。売却した時点では「もうやらない」と思っていても、しばらくすると「やっぱり自分はこの仕事が好きだったんだ」と思うオーナーもいます。しかし、そう思っても同じビジネスをするのはかなり難しくなります。売った会社に雇ってもらうなどであれば別ですが…
ですから後悔しないためにも、自分がその仕事に対してどれくらいの愛情を持っているのか?ということをきちんと見つめ直すことも大切です。
☑︎ドラマ『ハゲタカ』と競業避止。「富は問題にならぬ」とオーナー経営者に伝えたい
4.自分の起業家精神を甘く見積もっている人
「会社を売却した後はゴルフと旅行三昧の悠々自適な生活を送ろう」と思っていても要注意です。
確かにそのような人生を何十年と楽しめる人もいます。しかし、中には数ヵ月で飽きる人もいます。実際に海外に移住したものの一年も経たずに「やることがなくなっちゃったよー」と帰国するオーナーもいます。
なぜこのようなことになるかというと、自分の起業家精神を甘く見ているからです。会社を経営していたときは「早くのんんびりしたいなぁ」と思っていても、会社を売却して一年もしないうちにワクワクした刺激を求めるようになってしまうタイプは少なくありません。
「自分は創業者ではなくて二代目だし、そういう心配はないよ」と思っていても、創業者の遺伝子を引いているということは忘れないでください。自分で思っている以上に起業家精神が旺盛なケースも多いのです。
起業家精神が旺盛な人は会社を売却してしばらく経ち退屈を持て余すと「売却すべきではなかった」と後悔することがあります。
5.社会的なアイデンティティを失うことへの不安が強い人
会社を売却することは、社会的な地位や役割を手放すことを意味します。特にその会社が地域や業界において一定の地位を築いている場合、その影響はさらに大きくなります。
社会的な繋がりやネットワークも薄れ、自分の存在が社会から認知されなくなることに不安を覚える経営者は、売却後に孤独感や喪失感を強く感じることが多いのです。
会社売却によって失われるアイデンティティに対する事前の覚悟がなければ、後悔に至るリスクが高まります。様々な団体の役員をやりたがる人はこういった傾向が強いといえます。
自分の存在を絶対的なものではなく、(A社の社長である自分のように)相対的なものと捉えているのです。
6.金銭的な成功の価値を高く見積もり過ぎている人
企業を経営してきた中で常にお金の心配があった経営者ほど「お金を得れば全てのことから解放されて幸せが訪れる」と、お金の価値を過大評価しすぎる傾向があります。
会社を売却して数億円の資産を得れば、成功者として自分の心も満たされるだろうと期待するのは自然なことです。しかし、多額の現金を手に入れたからと、必ずしも長期的な心の充足感を得られるわけではありません。
売却直後の短い期間は満足感を得られても、その先に目標や夢がなければ経済的な自由の意味が薄れてしまいます。「経済的には成功したけど、なぜか満たされない」と感じる経営者は少なくありません。
金銭的な成功の価値だけを高く見積もり、売却後の人生設計が曖昧であったり、充実感を得る活動を見つけられなかったりすると後悔につながります。
7.買い手の文化や価値観を考慮せず売却した人
買い手の企業文化や経営方針が自社と大きく異なる場合、売却後に会社が変わってしまうことがあります。そして「こんなことになるなら売らなければ良かった、自分だけ幸せになって良いのか?」と葛藤が生じることがあります。
特に、社員の生活やキャリアに対して深い思い入れがある場合、自分が築き上げた企業文化や価値観が損なわれるのを見るのは、精神的に辛い経験となります。
会社の未来に対する責任感が強い経営者ほど、このギャップが後悔につながりやすいです。
8.売却に向けた準備期間が短い人
売却を急ぐと、経営者にとって心理的な準備が整わないままに手放すこととなり、心の整理がつかないことがあります。
特に突然の売却や、経営状況の急激な変化によって売却を決意した場合、振り返って後悔することが増えます。
売却は長期間にわたる計画が求められるプロセスです。じっくりとした準備期間を確保し、自分自身の気持ちや売却後の生活に関するビジョンを固めることで、後悔を避けられる可能性が高まります。
M&A仲介会社は早く手数料が欲しいので急かすかもしれませんが、あくまでも自分の気持ちが追いつくペースで売却の過程を進めましょう。