中小企業のM&Aでよくあるトラブル。契約成立後でも問題は起こる

M&A

中小企業のM&Aのトラブルについては、このサイトでも何度か書いています。「吸血型M&A」に関する記事では有名な事例を交えて悪質な買い手について解説しました。

また「M&Aのアドバイザーは怪しい奴らばかり」ということで、胡散臭いアドバイザリー会社の見分け方などを書いたりしました。

しかし、冷静に考えると、よくあるトラブルに関しては詳しく書いていなかったな…と思いました。ということで今回はそのお話です。

はじめに

中小企業のM&A(合併・買収)は企業の成長や経営者の事業承継において有効な手段とされていますが、実際にはさまざまなトラブルが発生することが多いです。

特に日本においてはM&Aが比較的新しい経営手法であるため、プロセスに不慣れな企業が多く、これがトラブルの原因になることも少なくありません。具体的には次のようなトラブルが起こりがちです。

1. デューデリジェンスでの情報開示不足

デューデリジェンス(企業価値の査定)は、買い手が売り手企業の経営状況や財務状況を確認するための重要なプロセスです。買い手はこの段階で詳細な情報を得ることで、買収後のリスクを予測し、適切な判断が可能となります。しかし、売り手側が必要な情報を開示しなかったり、曖昧に答えたりすることがあるため、後にトラブルに発展することがあります。

例えば、売り手側が故意に赤字事業や債務を隠していた場合、買収後に買い手が経営上の問題に直面し、経営が悪化するリスクが高まります。また、情報開示が不十分な場合、契約後に「重要な情報が開示されていなかった」として、買い手が契約解除や賠償を求める可能性もあります。

2. 労務問題によるトラブル

中小企業においては、従業員との関係が親密であることが多く、M&Aが従業員に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。例えば、買収後に経営方針が大きく変わり、従業員が不安や不満を抱き、退職が相次ぐといったケースがあります。特に、買い手が従業員の意見や気持ちを無視して経営改革を進めた場合、従業員のモチベーションが低下し、業績が悪化することがあります。

また、労務に関する規則が買い手と売り手で異なる場合もトラブルの原因になります。たとえば、買い手の企業が労働環境を改善しようとすると、逆に従業員にとっては不利な変更がなされることもあります。

3. 経営方針の不一致

M&Aにおいては、経営方針の統一が欠かせませんが、特に中小企業では、売り手の経営者がM&A後も一定期間経営に関与することが多く、買い手と売り手の間で経営方針が一致しないことがあります。経営方針の不一致は、M&A後の企業統合プロセスでしばしば問題を引き起こします。

買い手側は、効率性や利益追求のために新たなシステムや方針を導入することが一般的ですす。しかし売り手側の経営者や従業員は以前の方針や文化に愛着があり、変化に抵抗するケースが多く見られます。このような場合、意見の対立が激化し、円滑な統合が妨げられることがあります。

また、経営方針が不一致の場合、経営者同士の対立がエスカレートし、早期に売り手側の経営者が退職することもあります。こうした状況では、残された従業員も不安を抱き、離職率が上昇することがあり、企業の成長にマイナスの影響を及ぼすリスクが高まります。

4. 財務上のトラブル

M&Aでは買収価格や資金調達の方法、そして買収後の資金繰りが大きな課題となります。中小企業のM&Aでは、買い手側が十分な資金を確保できず、計画通りの買収が進まないケースや、買収後の経営が不安定になることがあります。

特に、自己資金での買収が難しい場合、銀行融資や投資家からの出資を得る必要が生じますが、これに失敗するとM&Aの計画自体が頓挫してしまうリスクがあります。

さらに、買収後に売り手企業の財務状況が想定よりも悪化していることが発覚し、経営が困難になるケースも少なくありません。

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5. 契約内容の認識相違によるトラブル

M&Aの契約書には多岐にわたる詳細な取り決めが記載されますが、これらの内容を買い手・売り手双方が正確に理解していないと、後にトラブルが発生することがあります。

例えば、買収後の業績保証に関する取り決めや、売り手の経営者が退職する際の条件などに関して、認識の相違が生じることがあります。

契約の内容を正確に理解しないまま契約が締結されると、後に「こんな条件は聞いていなかった」といったトラブルが生じ、法的な争いに発展することもあります。

6. 文化の違いによるトラブル

M&Aによって異なる企業文化が統合される際、文化の違いによって従業員同士の対立や摩擦が生じることがあります。特に中小企業では、売り手企業が地元に根付いた独自の文化や風土を持っている場合が多く、これが買い手側の企業文化と衝突することがしばしばあります。

文化の違いが原因でコミュニケーションが円滑に進まなかったり、従業員同士の協力が得られなかったりする場合、業績に悪影響を与えることがあります。

まとめ

中小企業のM&Aには多くの利点がある一方で、さまざまなトラブルが発生するリスクも伴います。価格設定、デューデリジェンス、労務問題、経営方針の不一致、財務上の問題、契約内容の認識相違、企業文化の違いといったトラブルは、事前に対策を講じることである程度防ぐことができます。

M&Aのプロセスでは、適切な専門家の助言を受け、詳細な計画を立てることが肝要です。また、買い手・売り手双方が誠実に情報を開示し、オープンなコミュニケーションを保つことで、トラブルの発生を抑えることができるでしょう。

中小企業のM&Aを成功させるためには、単に条件が良いか悪いかではなく、関わるすべての人々が理解し合い、共通の目標に向かって協力する姿勢が求められます。